- ◆本日はお忙しい中、お時間をいただきましてありがとうございます。作品について様々なお話しを伺いますがどうぞ宜しくお願い致します。
- 小原:はい、こちらの方こそ宜しくお願い致します。
- ◆まず最初に、今回のアニメ化にあたってのご感想などありましたら。
- 小原:そうですねえ、これまでは自分の作品がアニメ作品になる、ということはあまりイメージできなかったんです。というのも、アニメ作品というものは大勢のスタッフの方が運営していくものと聞いていましたから、「ご縁」のようなものがうまく合致してこそ、と考えていました。
今回、アニメ化のお話を頂いた際、僕の一番最初の感想は、大勢の方に「二十面相の娘」を知っていただけるなあ、そして本も今よりも売れるかなぁ、という事でしょうか(笑)。ははは、かなり率直に答えました(笑)
- ◆ありがとうございます(笑)。この質問、もう少し詳しくお答えいただいてもよろしいですか?
- 小原:はい、今回のアニメ化はお話を頂いてからのスピードがとても速くて、びっくりしています。 一番、最初に番組のプロデューサーの方とお話をした時に、しっかり作品を読み込んで下さっていたのにまず驚きました。アニメ化した際のシリーズの構成案など、具体的な話を明確にしてくださったんです。この方たちにお任せしていれば良い作品になるな、という実感をその時に持ちました。この時、初めてですね、自分の作品がアニメ化されることの嬉しさをジワッと感じたんです。
- ◆アニメーションの制作を担当するボンズさんとテレコムさんについても一言お願いします。
- 小原:素晴らしいスタジオさんに制作をしていただくことになり、素直に嬉しく思っています。
僕はアニメそのものはあまり見るタイプではありませんが、もちろん平均的な同年代と比べると遥かに見ます(笑) ボンズさんの「ウルフズレイン」は良く見ていました。最初はハンサムなキャラクターが出てくる女性向けのアニメ作品だと思って見ていたんです。そしたらこれが本当に面白くて! 毎週拝見していました。
ここからでしょうかボンズさんのお名前をしっかりと認識したのは。すごく遅いですね(笑)すみません。有名なスタジオなのに。テレコムさんは、私の世代ですと「ルパン三世 カリオストロの城」の印象が強いですね。私が気の置ける友人と今回のアニメ化の話をする際、必ず「テレコムが制作するんやで〜、すごいやろ」と自慢するんですよ。僕の世代が特別な気持を抱いてるスタジオ、それがテレコムさんですね
- ◆「カリオストロの城」には、やはり特別な想いがありますか?
- 小原:はい、もちろんですよ。僕の作品にそれが顕著に現れてると思います。
- ◆では、改めて原作について伺います。どのような経緯でこの「二十面相の娘」は生まれたのでしょうか?
- 小原:まず、江戸川乱歩の世界が好きだったんです。冒険活劇と猟奇が入り混じったような。
それを、今の時代でも娯楽作品として成立するアプローチで作品ができたら面白いだろうな、そう思ったんです。昔は学校の図書室に必ず江戸川乱歩のポプラ社のハードカバーが置いてありましたよね?今はどうなのだろう?もし知らない世代がいたら僕の好きな乱歩の世界を教えてあげたいな、とも思いました。ただ、二十面相という名前を出すかどうかは随分と考えました。というのも、いくら江戸川乱歩先生を尊敬しているとはいえ、赤の他人様が創られたキャラクターの名前をタイトルに持ってくることの是非もある訳です。
- ◆なるほど、よくわかります。特に昨今はキャラクターの権利には留意しなければいけない世情ですからね。
- 小原:はい、「二十面相の娘」は最初、読みきりでスタートしたのですが、その直前まで迷っていました。オリジナルの怪人に名前を差し替えようか、とも。しかし、考えれば考えるほど、この物語に「二十面相」以外の名前は考えられなかったんです。そこで、担当の編集さんと一緒に江戸川乱歩先生のご自宅に挨拶に行きました。ご存知の方も多いかと思いますが、江戸川乱歩先生のお孫さんが今は作品の管理をされておりまして、ご自宅に招いていただき貴重なお話を伺うこともできました。
書籍でしかみたことの無い、あの有名な乱歩先生の応接間に通していただいた時には、さすがに震えましたね(笑)
- ◆江戸川乱歩の話をもう少し。乱歩は様々なタイプの作品を書いてますが、小原先生はどのあたりの作品に影響を受けたのでしょうか?
- 小原:最初はテレビドラマですね。BD7と団次郎さんが活躍する「少年探偵団」(1975〜76)ですね。驚愕の最終回が思い出深いです(笑)。
そうそう、BD7の七つ道具が当時デパートで売っていまして、これが欲しくて欲しくて(笑)そのうち、少年探偵団のハードカバーを学校の図書室で見つけまして、

そこを基点として乱歩を辿っていった、そういう感じですね。でも、江戸川乱歩先生の作品を好きだ、とはっきり認識したのは中学生の頃読んだ大人向きの「パノラマ島綺譚」「芋虫」あたりだったでしょうか。少しマセてたかもしれませんね。そういえば最初に読んだ探偵団モノは、明智の婚約者(?)が二十面相に豹の着ぐるみを着せられ、助けを求めても豹の叫び声しか出ない。頼りの明智には鞭で追い立てられる、という話でした。「人間豹」?だったかな。どきどきして読んだな−。やっぱりマセてますね(笑)。
- ◆余談ですが映画や小説などにも影響は受けましたか?
- 小原:高校生の頃はデビッド・リンチとゴダールが大好きでした。
前衛さに強く惹かれていました。そういう年頃だったのでしょうが、果たしてどこまで理解していたのか(笑)でも当時はこんなに面白い作品があるのだろうか、心底そういう気持ちだったんです。今でも節目ごとにゴダールをDVDで見直していますが、全く訳がわかりませんね(笑)不思議なものです。
- ◆小原作品の特徴として、ある種のモダンさを持ってした流れるようなストーリーテリングの要素。しかし一方、時にその流れから逸脱し、展開がポンっと別軸に飛ぶ瞬間があります。そこが小原作品の特異な魅力でもあると思いますが。もしかして、そこにリンチやゴダールの影響もあるのでしょうか?
- 小原:ありがとうございます。う〜んあるのかも(笑)しれませんね。
あるといっておきましょうか(笑)
- ◆日本のアニメ界で、義賊といいますと「ルパン三世」というラインがあります。今の時代、二十面相をモチーフにあえてそれのラインを描くにあたり気をつけたことなどありますか?
- 小原:もちろん「ルパン三世」は漫画もアニメも大好きです。二十面相が義賊であるとするなら、という事で話を進めますが、やはり「賊」である以上は、宝も盗むし悪い輩なのである、ということは描いたつもりです。
- ◆「決して人は殺さない」という、二十面相は義賊らしい暗黙のルールを持っていますね。
- 小原:前半のエピソードで二十面相はその掟をみずから破ることになります。許しがたい悪ならば討つ。その考えはあっても良いと思っているんです。そこは昔の義賊と違うところでしょう。今は、そこの甘さは通用しない時代なのだと思います。
- ◆今度はチコについて伺います。チコは様々な性格的側面をもった少女として描かれています。この物語の核心的な話にもなるかと思いますが、どこからチコという少女の造形が生まれたのでしょうか?
- 小原:私事ですが、僕は賢い女性が好みなんです(笑)
チコは機転もききますし、ある種の賢い娘として描かれてはいますが単に頭が良いだけだと、あのチコにはなりません。チコに最初から両親がいて、何不自由なく、あの年齢まで成長していたとしたら、ですが、
普通の朗らかなお嬢さんだったでしょう。しかし生まれながらに両親がいない、という設定を作った時、いくら賢い娘でも、どこかのバランスは崩れるのでは?そう思いました。そこを意識してチコというキャラクターを成長させていったんです。
- ◆チコが、アクションシーンなどで不敵といってもよい程の様変りをする瞬間もありますが。
- 小原:そこがまさに、チコのアンビバレントなところだと思います。叔父夫婦から命を狙われるという日常に身を置かれた生活の中では、あの年齢の娘でも自分自身で身を守らなければならない、そんな意識が働くのだと思います。その発露として、指摘されたあの不敵さが表面に現れるのでしょう。
- ◆それでは原作でのチコの絵柄についても伺います。特に瞳ですね。大粒で繊細な表情をたたえた瞳が印象的なのですが。
- 小原:チコは多くはしゃべらない娘です。ですから瞳と口元には随分と気を使いました。
表情も大きく変化はつけませんでした。喜怒哀楽が表に出るタイプではない、そう考えたからです。言葉数は少ないですが、人と話す時も、一度しっかり考えて話す、そういう娘なんだと思います。
- ◆なるほど、作品中にも「見て、聞いて、考える」という、ある種の哲学が出てきますね。このあたりはどこから出てきたのでしょうか?
- 小原:う〜ん、どこからでしょうね(笑) それまでうっすらと考え続けていたことなんだと思います。
現代のネットの風評などは顕著だと思いますが、情報の伝わり方に「個人の意識や体験」が欠けているような気がしますね、どうしてなんだろう、とも思います。
そういう時代への僕なりのアンチテーゼなのかもしれませんね。
- ◆では最後にファンの皆さんにメッセージをお願いします。
- 小原:今は、いちアニメファンとして作品の放送が楽しみです。実は私も、こっそりとシリーズの構成を少しだけ!伺っていますが、原作のファンの皆さんがご覧になったら、「おっ、こう来たか!」と唸ってくれるはずですよ。もちろん原作をまだ読まれていない方は、今回のアニメ化をご縁に両方のファンになっていただけると嬉しいです(笑) 今日のインタビューの冒頭で申し上げましたがアニメ作品は多くの方の手で製作をしています。元々は私の個人作業で生み出された作品が、更に魅力的に仕上げられていく様子は楽しみであり、もちろん嬉しくもあるのですが、正直ちょっと悔しい気持ちもありますね(笑)。なぜでしょうか(笑)僕も皆さんと同じように4月の放送が待ち遠しいです。
- ◆小原先生、今日は楽しいお話、ありがとうございました!

小原先生にチコの「二面相」を描いていただきました!
少しだけすましたチコと、微笑んでいるチコ。